11ぴきのねこどろんこ

 

ごあいさつ


『11ぴきのねこどろんこ』は11ぴきのねこシリーズの絵本で最後に書かれたお話です。
11ぴきは「のらねこ」ではなくなり、川の畔で共同生活をしていますが、たくましい生活力と、なんでも楽しむ精神はこのお話でもそのままです。ちがうのは、ねこたちが周りを巻き込んでいくのではなく、ねこたちがきょうりゅうの子「ジャブ」に巻き込まれるということです。
これまで、大きな魚やウヒアハと対決したり、アホウドリをだまそうとして反対に働かされてきた11ぴきですが、今回は「ジャブ」と仲良くなります。でもやっぱりねこたちは誤解をして怒ったり、かたきうちだとひどいいたずらをしたり、「そんなことやっちゃっていいの?」がいっぱいです。それでいて後悔したり、寂しくなったりと人間味あふれるねこたち。馬場のぼるさんのユーモアたっぷりの世界を、ねこたちと一緒にお楽しみください。

スタッフ
原作 馬場のぼる(こぐま社刊)
企画・原案 松本則子
上演台本 クラルテ「11ぴきのねこどろんこ」アンサンブル
演出 藤田光平
人形美術 永島梨枝子
舞台美術 西島加寿子
音楽 一ノ瀬季生
照明 永山照明
舞台監督 宮本敦
制作 松澤美保・佐藤結
写真 田嶋哲
パンフレット編集

斎藤裕子 松澤美保 佐藤結 

大條一郎(デジタル編集)

 

出演者 

菅賢吉 永島梨枝子 鶴巻靖子 松原康弘 奥洞昇 宮本敦 斎藤裕子 荒木千尋 茨木新平 曽我千尋 横内麻里絵

 

演出にあたって  藤田光平


 今、自然の中での集団遊び、というものが見直されてきています。こどもたちの周りの自然な環境が減少し、一人でも遊べることが多くなった来ている今、とても大事な動きだと思います。 
 集団遊びの達人といえば、そう「11ぴきのねこ」です。いつも一緒で、いつも仲良し。好奇心旺盛、欲しいものには11ぴきの知恵とチームワークで突き進み、一方、嫌なものにはとことん知らんぷり。ただ、ともだちは・・・? 
 
 人形劇「11ぴきのねこどろんこ」では、ねこたちは恐竜の子ジャブと出会い、そして最後にはともだちになっています。ジャブはどろんこ遊びが大好き。ところが、11ぴきのねこはどろんこが大嫌い。この二者が、どうしてともだちになっていくのか。是非ご覧いただきたいところです。
 
 さて、「どろんこ遊び」のわたし自身の思い出は、最初は恐る恐る、やがて泥山を作り、トンネルを掘り、反対側から掘っていた別の子の手を握り締めた瞬間、何故か笑いが止まらなかった、というものです。その時の水・土・泥の感覚、日差しの温もり、涼しい風、友人の泥だらけの手や顔が、時間を超えて一気に感覚として蘇ってきます。自然や友人との一体感、心地よい感覚の記憶。この心地よさの感覚は、いわば、安心感でしょうか。人が生きていく上で、とても大事な感覚だと思います。

 人形劇「11ぴきのねこどろんこ」は、どろんこ嫌いの11ぴきのねこが「どろんこ遊び」を出来るようになるお話でもあります。劇場にお越しいただいた皆様には、ジャブに一喜一憂、振り回されながらも、ジャブや「どろんこ」を受け入れていく11ぴきの姿に、そして大いなる大地と戯れ、力強く、おおらかに成長していくジャブの姿に惜しみない拍手を送っていただけたら、と願います。

 

みんな仲良くなれそうな絵本 

原作馬場のぼる ~出版当時の言葉~


「11ぴきのねこ」シリーズの第6作目が、やっと出来上がりました。前作から7年目、世にも超のろのろシリーズです。自慢になることかどうかわかりませんが、最初の作品を発表したのが1967年ですから、まもなく30年になります。ほそぼそながら、よく続いたものだと思います。これもみな、みなさんのご声援のたまものであります。
 いま、11ぴきのねこたちの行動をふりかえってみて、なんとまあ、よくないねこたちを描いたものだ、とわれながら驚いております。先ず、約束を破って大きなさかなを食べてしまったり、あほうどりのまるやきを夢見たり、ぶたのおじさんの家を取りあげたり、とまあ、いけないことの数かず。世の識者からお叱りを受けることばかりやっています。
 しかし、そのようなことを平気で続けて来られましたのも、すべてみなさんの熱烈なる応援があったればこそでありまして、考えてみれば、じつにこれはフシギな現象であります。
さて、このたびの11ぴきは、なぜか山暮らし。これまでの行いを反省したのか、とても良いねこです。ある日ねこたちは、山中で恐竜の子と出遭い、友だちになりますが、双方の間に少し考え方のズレがあり、そこから問題が生じます。私はこれを描きながら、これは、そっくり人間世界に当てはまるのではないか、と思いました。世界中の人びとが、お互いの生き方の違いを認め合うことが出来れば、民族紛争も戦争も起こらないのになあ。相手の立場を思いやり、少しずつガマンして譲り合い、慾望をおさえることが出来ればなあ。とまあ、そういうのは、むずかしいですなあ。

 

『11ぴきのねこ どろこんこ』誕生! 
佐藤英和(こぐま社相談役) ~出版当時を振り返って~ 


 6冊目の『11ぴきのねこどろんこ』は前作から7年、『11ぴきのねこ』が出てからは29年が経っていました。今度は恐竜の子、ジャブが相手です。ねこたちとジャブとの間に交流が生まれ、お互いを喜ばそうとしますが、なかなかうまくいきません。友情というものは、そういうところがあるものです。良かれと思っても、相手には通じないこともある。ただ、この絵本は今までの本と少し違っておりました。今までの5冊のような結末と違って、初めて大団円で終わるのです。
 私はこの絵本を見た時に「あー、11ぴきのねこはこれでおしまいだ」と思いました。先生は絵本が出た時に、私に「やっと出ました6冊目。みんなみんな うれしいうれしい!!」というサインをして下さいました。二人はもちろん“これがおしまいだ”とはひと言も、ついにいいませんでした。「先生、次ですね、お願いします」と申し上げましたら「やりましょう!」とおっしゃった。けれども、私も先生も胸の内では「あー、これで11ぴきは完結した」と思いました。
 「11ぴきのねこ」シリーズは、6冊出るまでに、なんと29年かかりました。全6冊合わせて、現在391万部を超えています。そして、6冊通して見ると、ちゃんと11ぴきのねこたちが、時とともに成長していることに気づきます。『11ぴきのねこどろんこ』にいたっては、子どもだったジャブはおとなになり、自分の子どもまで生んでいる。それを見守るねこたちも、はっきり成長しています。私は思うのです、子どもたちというものは、毎日毎日素晴らしい成長を遂げている。だからこそ、子どもたちはこのシリーズに共感を持ち、楽しいと思うのではないでしょうか。
 「11ぴきのねこ」シリーズは、その1冊1冊にドラマがあるように、6冊が生まれてきたことにもまたドラマがある。このシリーズで、先生と私は作家と編集者としてまっとうしたという思いがあります。