ごあいさつ
あらすじ
スタッフ・キャスト

「動物農場」から「新・動物農場」へ

東口 次登

オーウェルと『動物農場』

川端 康雄(日本女子大学教授)

「父とジョージ・オーウェル、私と動物農場」

羽深 加寿男

ジョージ・オーウェルの生きた時代とロシア革命

出演者のことば

シュールに!ミステリアスに!

西口司郎(イラストレーター)

『願い』

松原康弘(人形美術)

「新・動物農場」の舞台にむかって

西島加寿子(舞台美術)

『自由への歌』

一ノ瀬季生(音楽

稽古フォット

 

オーウェルと『動物農場』

日本女子大学教授・英文学者
   川端 康雄

 英国の作家ジョージ・オーウェル(一九〇三―一九五〇年)は大英帝国の植民地インドで生まれた。名門イートン校を卒業後、警察官としてビルマに赴任。帝国主義の支配の虚しさを実感し五年後に辞職、パリとロンドンで放浪生活に入った。その経験を描いた『パリ・ロンドン放浪記』を一九三三年に発表。一九三六年末にスペイン内戦が始まると、当地に赴き共和国側の民兵として戦うが、 狙撃を受け負傷。さらに共和国側の内部抗争に巻き込まれ帰国。その記録を綴った『カタロニア讃歌』(一九三八年)はルポルタージュの傑作として名高い。一九四五年に『動物農場』、一九四九年に『一九八四年』を発表し、一九五〇年に結核で死去。最後の二作品が特によく知られるが、他にも時事的な批評から身辺雑記まで含む、膨大な量のエッセイを書いた。
 『動物農場』を書いた動機についてオーウェルは「ほとんどだれにでも簡単に理解できて、他国語に簡単に翻訳できるような物語のかたちでソヴィエト神話を暴露すること」だったと述べている。一九二二年に世界初の共産主義国家としてソ連(ソヴィエト社会主義共和国連邦)の樹立が宣言されると、海外の知識層の多くが、資本主義の抱える社会矛盾を解決するモデルとしてソ連を理想化した。批判分子を不当逮捕して流刑や死刑に処する弾圧(「大粛清」)や、経済計画の破綻――こうした負の情報が言論統制で伝えられず、光り輝く理想国家ソヴィエトというイメージを信じ込む――これが「ソヴィエト神話」の中身であった。
 オーウェルはスペイン内戦で共産党系の組織と異なる派に加わったことで、共産党の弾圧を受け、その「神話」に英国人としていち早く気付くことになった。それを語り伝えるために彼が選びとったのが「おとぎばなし」の形式だった。
 『動物農場』は英国の四つの出版社に断られ、出版まで二年近くを要した。ソ連が英国の同盟国だったためである。ところが世界大戦が終了してまもなく資本主義陣営とソ連の共産主義陣営の関係が冷え込み、英米でソ連批判が歓迎される事態になった。冷戦時代の到来である。『動物農場』の執筆時と国際情勢が正反対の趣になったのである。
 「ソヴィエト神話」の暴露という直接的な目的をもつ『動物農場』だが、一九九一年にソ連が解体消滅して物語はその役割を終えたと言えるのだろうか。リアリズム形式で書いていたらあるいはそうなったのかもしれない。しかし寓話形式を用いることによって、オーウェルの諷刺の標的はソヴィエト国家という枠を超えて、時空を超えて政治権力を握って驕れる者が陥りがちな腐敗を撃つものとなった。六十年以上前に書かれた物語であるが、権力が行使される、あなたのよく知る場所、あなたのよく知る人が彷彿とされてくるにちがいない。そのような普遍性をもつ物語であるからこそ、いまもまだ多くの読者を得ている名作たる所以なのだろう。

一九五五年、横浜に生まれる。日本女子大学文学部教授。
イギリス文学、イギリス文化研究。著書に『オーウェルのマザー・グース――歌の力、語りの力』(平凡社)、『「動物農場」ことば・政治・歌』(みすず書房)、訳書に『オーウェル評論集』(編・共訳、平凡社)、『ユートピアだより』(晶文社)、オーウェル『動物農場』(岩波文庫)などがある。

「動物農場」
監督 ジョン・ハラス&ジョイ・バチュラー
(1954年/イギリス)
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
価格:¥3,990(税込)
RD DR 1954 (renewed 1982)

人形劇団クラルテ
「動物農場」(1999年)

川端康雄 訳
「動物農場 おとぎばなし」
(岩波文庫 2009年)