ごあいさつ
あらすじ
スタッフ・キャスト

「動物農場」から「新・動物農場」へ

東口 次登

オーウェルと『動物農場』

川端 康雄(日本女子大学教授)

「父とジョージ・オーウェル、私と動物農場」

羽深 加寿男

ジョージ・オーウェルの生きた時代とロシア革命

出演者のことば

シュールに!ミステリアスに!

西口司郎(イラストレーター)

『願い』

松原康弘(人形美術)

「新・動物農場」の舞台にむかって

西島加寿子(舞台美術)

『自由への歌』

一ノ瀬季生(音楽

稽古フォット

 

「父とジョージ・オーウェル、私と動物農場」

有限会社東京エンジン代表取締役
羽深 加寿男

父は日本のジョージ・オーウェル研究者の一人でした

 5年前に83歳で他界した父は都内の著名私立大学の英米文学の主任教授を務めると共に、生涯を通じて「ジョージ・オーウェル」を研究し続けた英米文学研究者の一人だったのです。
 ジョージ・オーウェルは20世紀にイギリスが生んだ最高の作家であると同時に、ジャーナリストと言われています。日本で知られる英国の作家と言えば、チャールズ・ディケンズ、アーサー・コナン・ドイル、オスカー・ワイルド、アガサ・クリスティなどが挙げられますが、ジョージ・オーウェルを知っている人は数少ないのが現状です。
 私が幼いときにジョージ・オーウェルの代表作「動物農場」(原題:Animal Farm)のストーリーを父は良く話してくれました。多分絵本か何かがあった記憶がありますが、定かではありませんが……幼いなりにも、「偏ったイデオロギーが猛進する怖さ」「ファシズムへの恐怖」を何となく感じ取った記憶があります。

『動物農場』は、時を超えた
   普遍的なテーマが凝縮されている

 『動物農場』は、第二次世界大戦終結の2日後の1945年8月17日に刊行された、当時のスターリン主義やナチズムなどへの批判や警鐘を込めた「大人の童話」です。
 敢えて「大人の童話」と定義したのは、作品に込められたテーマが時代を超えた「普遍的なテーマ」であるからです。
 「普遍的なテーマ」とは、人類、生物は平等に扱われなければならないということです。
 人種差別、宗教差別はもちろん、日本でも未だに絶えない偏見や差別があります。人権という言葉がありますが、これは「人間が生まれ持った平等の権利」と解釈するのが正しいと思います。
 絶滅危惧種(レッド・リスト)、希少性動植物も同じです。私自身、少数派(マイノリティ)を自認していますので、全体主義的な国家やマスコミの扇動には断固反対し続けています。日本人は知らず知らずに扇動されるDNAがあります。
 第二次世界大戦のような悲惨な過ちを繰り返す懸念が現在にも残っているからです。
 たくさんの小さい生命や様々な知恵・意見が集まってこそ、人類の共存そして地球生命体の存続があるのです。
 『動物農場』でジョージ・オーウェルが語りかけるメッセージこそ、現代社会において重要なテーマだと思います。
 是非今回の『新・動物農場』を御覧になって、そのメッセージをお一人お一人が様々な想いで受け止めて頂ければ幸いです。

『動物農場』は1954年にアニメーション化、
近年公開されDVDで発売されています

 1954年にイギリスの「ハラス&バチュラー」というアニメーションスタジオがイギリス初の長編アニメーションとして公開されました。
 現在の日本のアニメーション作家の第一人者である「宮崎駿」さんは、この『動物農場』に強い影響を受けたそうです。実際、三鷹の森ジブリ美術館の監修の下で2008年12月に公開されました(現在は公開されていません)。2009年にDVD化もされていますので、今日『新・動物農場』を御覧になった方は是非観ていただきたいと思います。

※1940年に設立された「ハラス&バチュラー」スタジオは、累計2000本の短編、及び7本の長編アニメーションを制作し、イギリスで最大のアニメスタジオとして、米国のディズニーと双璧でした。

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』は
    欧米では知らない人がいない不朽の名作

 私は大学生の時に初めて、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』を読んで興奮し感銘した。1948年の4と8を入れ替えた「アナグラム」の1984年は、全体主義国家により、あらゆる人間性を監視し背けば収監し矯正する、近未来社会の絶望的な圧政を描いた反ユートピア(ディストピア)小説である。テレビと監視カメラが一体になった「テレスクリーン」と呼ばれる、国家が個人情報を管理し統制をはかっていく「プロパガンダ型の網羅的システム」を、ジョージ・オーウェルはコンピューター社会が始まる40年前に洞察し、鋭く緻密に且つ批判的に描いている。もちろん村上春樹の『1Q84』は、『一九八四年』にインスパイアされた作品です。
 現代のマスコミに見られる「決めつける」「余儀なくさせる」「安易に風評を創造」「誤報を謝罪しない」など……こんな時代をジョージ・オーウェルは危惧していたのです。映画化もされていますのでご興味のある方は是非。
 かの巨匠リドリー・スコットが『一九八四年』を映像化したアップル社のCMは有名です。是非御覧下さい。
 1984年、ジョージ・オーウェルをトリビュートした大規模な「インターナショナル・プロジェクト」がありました。パリ~ニューヨークを同時衛星中継した番組『グッド・モーニング・ミスター・オーウェル』が放映されました。このプロジェクトは故ナム・ジュン・パイク(韓国の前衛映像芸術家)が中心となって、坂本龍一、ローリー・アンダーソン、ジョン・ケージ、アレン・ギンズバーグ、ヨーゼフ・ボイス、ピーター・ゲイブリエルが参加しました。個性的なパフォーマンスを持つ現代の奇才たちがオーウェルに敬意を表して集まりました。多分、NHK教育だったと思いますが、1984年の年末に編集版を放送しました。私は機会があってノーカット版を観ました。とても刺激的だったのを覚えています。
 『グッド・モーニング・ミスター・オーウェル』は愛知県文化情報センターのアートライブラリー内で閲覧できるそうです。ジョージ・オーウェルの存在や主張がいかに様々な人々に影響を与えてきたかが分かります。

ジョージ・オーウェルと父から授かった
          未来(あす)への警鐘

 私は父が意外にも「シニカル」な見識を持っていたり、「ジャーナリスティック」な視点を抱いていたことを知って嬉しかった。
 「シニカル」はシェークスピアに始まるイギリスジョークだった。父は「ウイット」に富んだ人だった。「ウイット」は笑いの最高峰と言っていた。「ジョーク」はブラックが多い。ブラックがあるからジョークには幅が広い。「ウイット」は人間性が表れるから私も好きである。父の「ジャーナリスティック」な視点はジョージ・オーウェルを研究した成果であったのだと思う。
 「イデオロギー」に対しては無口だった父だったが、父なりの「平和主義」を強く持っていた。他界する寸前まで、もうろうとする中でも「童謡」を口ずさんでいた。「夕焼け小焼け」は特に好きだった。人間の「自由」や「夢」、「喜怒哀楽」を奪う権力を嫌っていたと思う。だからこそ、私には自由に生きて欲しかったのだと思った。
 現在の私たちの社会は、資本主義という「経済学の発明品」が地球上を覆い尽くした結末の中に生きているかも知れません。
 それとも、全てのイデオロギーに勝利した最強と言われる「自由主義または民主主義の限界」にいるのか?多分「人類の進化と発展の終着地」に我々は確実に向かっているのだと思います。それに対峙するためには、3・11に起きた「東日本大震災が語るメッセージ」をどう受け止めるかが「未来」ではないか?と思います。
 いまこそ「豊かさとは何か?」「自由とは何か?」を考える上で、私たちはジョージ・オーウェルが残してきたものをもう一度目にする必要があると思います。
ジョージ・オーウェルが「原子力発電所の事故」を知っていたならばこう語っただろう、
「科学技術は本当に
   人間を幸せにしてきたのだろうか?」と。

《羽深 加寿男 プロフィール》
昭和32年10月東京都生まれ。
昭和50年4月成蹊大学法学部法律学科入学。
平成14年4月協同広告株式会社
  ・コミュニケーション戦略局 マーケ   ティング&クリエイティブ局長を経て
平成16月5月 有限会社 東京エンジン設立
  ・代表取締役就任 現在に至る
  ・コミュニケーション・コンセプト
  ・プロモーション戦略
  ・商品開発など手掛ける